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カシュガル再訪:グンナー・ヤーリング大使没後10年記念ワークショップ

Poster_kashgar

Kashgar Revisited: Workshop to commemorate the 10th anniversary of the death of Ambassador Gunnar Jarring

Sponsored by The Danish Council for Independent Research; Humanities(FKK), The Swedish Academy of Letters, University of Copenhagen(Asian Dynamics Initiative The Nordic Institute of Asian Studies, The Department of Cross-Cultural and Regional Studies)

Time: 10th -12th May 2012
Venue: Nordic Institute of Asian Studies, University of Copenhagen, Leifsgade 33, 3rd floor, 2300 Copenhagen

Organizers:
Ildikó Bellér-Hann (Copenhagen)
Birgit Schlyter (Istanbul)
Jun Sugawara (Tokyo)

「世界ウイグル会議」東京会議の喧騒をよそに(?)、北欧はコペンハーゲンで、新疆研究に関する標記学術会議が5月10日から3日間の日程で開催された。

今回、私はオーガナイザーの一人として、開会の短いあいさつと、一セッションのチェアーと、エクスカーションのツアーコンダクターと、ついでに拙い研究発表をこなし、大変消耗はしたが、実に気持ちの良い、濃密で面白い会議であった。当会議の報告は(今回は組織者としての視点から)私はやや長めのものをいずれ書くつもりではあるけれども、さしあたり、ここでは概略のみご紹介することとしたい。

Copen01

会議風景。お部屋の壁にはなんと『準回両部平定得勝図』(実物)が掲げられていた。


(何度も言うように)近年、新疆地域に関する学術的関心は確実に高まりを見せている。従来、この地域に関する研究は、歴史学と自然科学研究にほぼ限定されていたが、近年は人類学、言語学などの人文学はもとより社会学、政治学、経済学、国際関係学といった分野の研究も増え、いわゆる「地域研究」の枠組みで当地を解読して行こうという試みが始められるに至っているように見受けられる。

今日、当地を扱う学術研究は、むしろ後発の社会科学を中心とする「地域研究」や、ジャーナリスティックな研究の方が、より現代事情に直結する問題を扱っているため(インパクト・ファクターという点で)より高い評価を受けているようである。しかし、そういう状況は、必ずしも書写資料に依拠した人文研究の価値が低いということを意味するものではないであろう。人文学研究に期待される、対象地域に関する歴史的・文化的背景に関する堅牢な知見と、マテリアリティある手堅い記述は、どちらかといえばそうした点に貧しい「流行りの学問」(実際、そうした学問はその核心的な事実認識という点において、人文系の学術成果に大いに依存している)に対し、一定の「アドヴァンテージ」を有している筈なのである。

コペンハーゲン大学で開催された今回の会議は、上述のような趣旨のもと組織された"text-based"の新疆研究に関する国際ワークショップである。開催年である今年、2012年はたまたま当分野において顕著な貢献ある碩学にしてスウェーデンの有名な外交官、グンナー・ヤーリング大使(Ambassador Gunnar Jarring, 1907?-2002)の没後10年にあたり、今回はそれを記念する形で開催の運びとなった。なお、開催に当たってはThe Danish Council for Independent Researchほかいくつかの資助を受けた。

この会議の組織に当たっては、私は3人の組織委員(organizers)のひとり、より正確には、こういう会を開こうという「陰謀」を目論んだコンビのひとりとして、その一番最初から(たぶん、最後まで)かなりのエネルギーを注ぎ込んだつもりである。国際会議の組織は国内外を通じてこれで何回目かであるが、今回はこれまでの中でも最もカジュアルかつコンパクトに、うまく「こと」が運んだ会議であったし、報告されたペーパーもまた、最近の流行り言葉?を用いるならば、私の研究上の「核心的利益」に直結するような粒ぞろいの素晴らしいものばかりであった(当然といえば当然である。報告者も私と今回の「相棒」のイルディ・ベラー=ハンの「趣味」で厳選したのだから…)。

Copen04

コーヒー・ブレイク


以下にプログラムを示す:

1st Day(May 10)

Welcome address and introduction by the organizers

Paper 1 KEYNOTE Birgit Schlyter(Istanbul/Stockholm):
The Turkological Legacy of Ambassador Gunnar Jarring
 (グンナー・ヤーリング大使のトルコ学へのレガシー)

Paper 2 Arienne Dwyer(Kansas):
The contribution of the Jarring Lund Corpus to Turkestani language and culture studies
(ヤーリング・コレクション・ルンド言語資料体のトルキスタン言語・文化研究への貢献)

Paper 3 Rian Thum(New Orleans):
The functions of writing in a 20th-century manuscript culture: an overview of the Eastern Turki manuscript corpus .
(20世紀写本文化における書写の諸機能:東トルコ語写本資料概観)

Paper 4 Äsäd Sulaiman(Stockholm):
From “Eastern Turki” to “Modern Uyghur” How did the Southern Dialects of “Eastern Turki” develop in to the “Modern Uyghur”? – A historical and Socio-Linguistic Discussion of “Kashgar Prints” during the transitional period (1880s-1930s)
(東トルコ語から現代ウイグル語へ-いかに「東トルコ語」南部方言は「現代ウイグル語」へ発展したか:過渡期(1880s-1930s)のカシュガルの印刷物に関する歴史的、社会言語学的検討)

Paper 5 Abdurishid Yakup(Berlin):
The Khotan dialect of Uyghur as seen in Jarring’s transcription materials
(ヤーリングの転写資料にみるウイグル語ホタン方言)

Paper 6 Onuma Takahiro(Sendai):
The 1795 Khoqand mission and its negotiation with the Qing: Political and diplomatic space of Qing Kashgar
(1795年のコーカンド使節と清朝との交渉:清代カシュガルの政治的、外交的空間)

Paper 7 Rune Stenberg(Berlin):
Closeness and marriage in Uyghur Kashgar
(カシュガルにおけるウイグル人の親密性と婚姻)

Paper 8 Joanne Smith Finley & Dilmurat Mahmut(New Castle):
'A man works for the land, a woman works for her man': gender roles and inter-generational change in Xinjiang.
(「男は土地のために働き、女は男のために働く」:新疆におけるジェンダーの機能と世代間の変化)

Discussant’s comments & discussion...James Millward(Washington DC) and Laura Newby(Oxford)

Reception


2nd day(May 11)

Paper 9 Eric Schluessel(Cambridge/Mass):
Xinjiang and the Colonial Question: Punishment and Reform under Late-Qing Rule
(新疆と植民問題:清朝支配後期の刑罰と改革)

Paper 10 Jun Sugawara(Tokyo/Ina):
Waqf Domains in Kāshghar: Dimensions and Distributions of Pious Endowments for Mazars in the Early 20 th Century.
(カシュガルにおけるワクフ地:20世紀初頭の聖者廟寄進地の規模と分布)

Paper 11 Alexandre Papas(Paris):
Muslim Reformism in Xinjiang: Reading the Journal Yengī Hayāt (1933-1936)
(新疆におけるムスリムの改革運動:『新生活』紙(1933-1936)を読む)

Paper 12 Thierry Zarcone(Paris):
Underground Naqshbandi Madrasas in Southern and Northern Xinjiang after 1949
(1949年以後の南北新疆におけるナクシュバンディーの秘密学校)

Paper 13 Rahile Dawut(Ürümchi):
Ordam Mazar: The Intersection of Varied Belief Systems in Trans-Cultural Xinjiang
(オルダム・マザール:文化横断的新疆における多様な信仰システムの交接点)

Paper 14 Chris Hann & Ildikó Bellér-Hann(Halle/Copenhagen):
Magic, Science and Religion in Xinjiang
(新疆における呪術、科学そして宗教)

Paper 15 Fredrik Fällman(Stockholm):
Defining the past and shaping the future – reflections on 20th century Uyghur-Han-Hui relations and the struggle for rights and precedence today
(過去を定義して未来を方向づける:20世紀維漢回関係と今日の権利闘争)

Discussant’s comments & discussion...James Millward(Washington DC) and Laura Newby(Oxford)
Conference dinner

3rd day

Visiting the Jarring Collection of Lund University Library
(エクスカーション:ルンド大学図書館ヤーリング・コレクション訪問)

Copen03

ヤーリング・コレクションの最新登録資料(19世紀中葉までのMakhdumzade系図)

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ルンド大学図書館でヤーリング・コレクションの写本資料を皆で閲覧


個別報告の内容については長くなるのでここでは立ち入らない。詳細は近いうちに(まだ書いていないが)公刊予定の私の会議報告、あるいは数年以内に出版予定の成果論文集を参照されたい。一言で言って、新疆に関する人文研究は確実に質と量を充実させてきており、研究者の強固なネットワークとあいまって、当該分野の今後の一層の発展を確信させる、そんな幸福感いっぱいのワークショップであった。

今回の会議は、位置づけとしては、直接的には2004年11月のSOAS会議のリユニオンである。会議報告に書いたように、あの会議は実に愉快で、「小学校の教室みたい」なにぎやかで打ち解けた雰囲気の中、時にはチェアーが「静かにして!」と叱りつけるほどわいわい議論した面白い会議であった。あの会議の報告文を締めくくるに当たり、私はこう書いた。

…こうした暖かい雰囲気で育まれた関係が今後も発展的に維持されていくことを私は期待している。可能ならば2年ごと、あるいは3年ごとにこうした学会が開催できないものであろうか(そういう考えはオーガナイザーも抱いているようである)。こうした集いが定期的に行われれば新疆・ウイグル人に対する最新の知見の共有が促進され、各研究分野の発展、ひいては新疆・ウイグル人に対する一般社会の理解も深められることであろう。必要とあらば私も及ばずながらその実現には力を尽くしたいと思う。

そうした思いが、事後8年を経て本当に実現したのであるから感無量である。いくぶん、顔ぶれは前回通りとはいかなかった(今回は前述の通りヤーリング大使の業績を顕彰するという意図もあり、いわゆるContemporary Issueを扱った研究は対象にせず、もっぱらtext-basedの人文学研究を対象にした)けれども、ミルワードやニュウビーが討論者として参加してくれたのはありがたかったし、若い世代の研究者が報告者、フロア出席者として参加してくれたのも幸いであった。こうした集いが今後も続くことを期待したい。

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