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佐藤次高先生逝去

4月11日夕刻に前立腺がんでお亡くなりになったそうです(享年68)。

佐藤次高(wikipedia)

佐藤次高先生は、日本のイスラーム地域研究の実質的な指導者として、この研究分野の振興に大きな貢献を為した方でした。おそらくイスラームに関する勉強を少しでもした事のある方は、どなたも1度は先生の本をご覧になったことがあるでしょうし、大学や大学院でいささかなりともイスラームに関することを扱ったことがある方は、先生と言葉を交わされたことがあったのではないでしょうか。それほどに佐藤先生は多くの本を手がけられ、また気さくに多くの人と語り合った方だったと私は思っています。

おそらく先生のきら星のごとき、たくさんのお弟子さんたちが、今後さまざまな形で先生のご業績や人となりを回顧されるでしょう。ですのでここで周知のこと、ウイキペディアで分かるようなことは書きません。ただ先生の温厚なお人柄は私のごときものにまで向けられ、何回となく楽しい時間をご一緒させていただきました。そういうことを少しここで書いて追悼の言葉といたしたく思います。

私は私学青山学院の出身ですので、当然教室で佐藤先生の講義を拝聴する機会は全くありませんでした。しかし研究会やアルバイトで東洋文庫に通っていた時分には、当時先生が研究部長を勤められておられたことから、研究会、東洋学講座、そして東洋文庫のいたるところで先生と顔を合わせお話する機会がたびたびありました。とくに夕刻以降にお酒を飲みながら頻繁に開催されたもうひとつの「研究会」では実に濃密な、愉快な時間を過ごさせていただいたことが実に思い出深いのです。今思えば、あのときに佐藤先生はじめ、多くの先生と語らった経験は、教室以上に勉強になりました。

佐藤先生は実に明朗な方で、飲めば陽気な酔っ払いになり、無邪気な子供のような振る舞いもなさる、(こういう言い方もどうかと思いますが)かわいい方でした。楽しい思い出はいろいろありますが、よく思い出されるのは携帯電話が普及し始めたころ、どなたでしたか、やはり同年輩の先生が手に入れたばかりの携帯電話を持ってきたことがありました。そのとき既に「酔っ払い」になっていた先生は「それ、貸して」というと、すぐにどこかに電話をかけ(おそらくご自宅だったのではないでしょうか)「やあ、あのね、用は特にないんだけど、今ね、携帯電話からかけているんだー」と陽気に携帯初体験?を楽しまれておりました。そんなことが思い出されます。あの頃よく行ったのは本駒込の大衆割烹「花輪」。秋田料理の居酒屋でした。

また、毎年夏に野尻湖畔で開催されている「野尻湖クリルタイ」(日本アルタイ学会)でも、旧野尻湖ホテルで開催されていた頃はよく佐藤先生にお目にかかりましたし、何度かは同室になる光栄(?)に浴しました。野尻湖クリルタイは研究発表とコンフェッション(自己紹介)を軸とする合宿型の学会ですが、昼のセッションよりも夜の宴会場で展開される「第二部」の方が長時間でかつ面白い大変有意義な集まりです。そこでも浴衣姿の佐藤先生は快活に、しかもかなり遅くまで起きておられ、「同じ部屋なんだからまだ寝なくてもいいだろう」と同室の人間を「道連れ」にさまざまなお話を楽しそうになさっておいででした。

もうああいう楽しいお酒をご一緒することはできないのですね。

研究上のことは、先生のご専門とは私は地域的にも時代的にも違っているので深いことは何も言えません。ただ『マムル-ク』は日本のアルタイ学と歩調を合わせてきた「佐藤先生ならでは」のご著書だと私には思われます。また『聖者イブラヒーム伝説』は、ご本を出されるずいぶん前から『花輪』の語らいの中で構想を伺っておりました。イブラヒーム・アドハムについては「サイラーミーの『安寧の歴史Tarikh-i amniyya』にも新疆の同名の聖者廟について記事がありますよ」と申し上げたら、その部分のコピーを所望され、東洋文庫の研究部長室にコピーをお持ちしたことがありました。ずいぶんたってからご本が出版され、梅村坦先生が日本語に訳された該当箇所が載っていたのを拝見したときには感慨深かったです。

そして、新疆にかかわることといえば、ここ数年はお弟子さんであるトフティさんの解放に尽力され、ウルムチまで足をお運びになりました。トフティさんの問題はまだ解決したとは言いがたいのですが、自分の学生のためならばとことん手を尽くす、教師としてのそのまっとうな姿勢はお見事でした。

佐藤先生、心よりの感謝を申し上げます。いまは安らかにお休みください。

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