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野田仁『露清帝国とカザフ=ハン国』

野田仁『露清帝国とカザフ=ハン国』東京:東京大学出版社, 2011年3月, 292頁
NODA Jin, The "Kazakh Khanate" Between Russian and Qing Empires. (in Japanese) Tokyo: University of Tokyo Press, March 2011, 292p.

著者の野田さんからご恵贈いただきました。野田さん、どうもありがとうございます。

本書はおおむね18-19世紀という時代設定で、カザフ=ハン国をはじめて中心に据えてロシア帝国ならびに清帝国との三国間関係を論じた意欲的な研究です。著者の言葉で言い直せば「ロシアと清朝(中国)という2つの帝国と、その間に位置していた「カザフ・ハン国」との国際関係の進展を軸に、18-19世紀の中央ユーラシアにおける国際秩序の在り方を問い直」した著作ということになります。

これまでのカザフ史研究は、清朝とカザフの関係、あるいはロシアとカザフの関係というように(先行研究者が主として扱った史料を反映して)一面的な研究に終始しがちで、双方向に目を配った「統合的な分析」をする視点が不足していたといえます。それはとどのつまり、これまでのカザフ研究がロシア史や中国史を出発点にしていたためであり、カザフ、あるいは中央ユーラシア世界自体を主たる関心の対象としてはじめて浮上してくる視点であると思われます。本書はまずもってこの視点から考察を試みている点が最大の特徴です。

さらに著者の問題意識として興味深く思われるのは、清朝とカザフの国際関係の再検討(つまり上述の視点に立ち、カザフ・ロシア・清朝の3者間の関係の中での清朝とカザフの関係をとらえ直す)が必要であり、それが他でもない、露清関係史の大きく空いた欠を克服することになるということを婉曲に指摘している点です。従来の露清関係史は、著者によれば、極東・東シベリアを舞台とするものが中心で、中央アジア・西シベリアを扱った研究は概ね19世紀中葉以降の事柄を扱っています。まさに「18世紀前半以降150年近くの「西側の露清関係」は等閑に付されてきた」わけで、清朝=カザフ関係はまさにその欠を補うテーマだと言えます。

以下は本書の構成です。

序章 中央ユーラシア世界におけるカザフ=ハン国
第一部 中央ユーラシアの国際関係と「カザフ=ハン国」
第1章 カザフ=ハン国の当方関係再考
第2章 ロシア帝国の中央アジア進出とカザフ=ロシア関係
第二部 カザフ=清朝関係の基層
第3章 カザフの帰属問題と中央アジアにおける露清関係
第4章 カザフの3ジュズと哈薩克三「部」
第5章 清朝によるカザフへの爵位授与
第三部 露清関係とカザフ=ハン国の命運
第6章 西シベリア=新疆間の露清貿易とカザフの関与
第7章 露清関係の変容と「カザフ=ハン国」の解体
終章 中央ユーラシア国際関係史の展開 

著者が序章で述べられているように、本書が中央ユーラシア史、世界史、帝国論、国際関係史それぞれに相応の寄与貢献をなしていることは疑いのないことのようであると思われます。歴史学のみならず、今日の中央ユーラシア地域像のなりたちを理解するうえで、本書は格好の材料を提供する良書であるといえるでしょう。

私はカザフも国際関係史も専門外で、あまりまっとうなことは申せないのですが、個人的には野田さんが公文書史料「以外」で重要なものとして用いられた史料の一つ、クルバンガリー・ハーリディQurbān ʿAlī Khālidīの『東方五史Tavārīkh-i Khamsa-yi Sharqī』にかねて一定の興味を抱いておりました(当史料の紹介としては本書pp.33-44のほか濱田正美先生の先駆的な論文もご覧ください)。私も野田さんと同じく小松先生がお持ちのコピーをコピーさせていただき、自分に関係がありそうなところを「つまみ食い」読みしておりましたけれども、常々カザフ、タタールの記事の豊富さに辟易…もとい感嘆していた次第。当史料を周到に紹介され、かつ本格的に活用された部分が、(まことに勝手ながら)読んでいてもっとも面白かったところです。

末筆ながら、このような重厚な一書を世に出された野田さんに、惜しみない賞賛の拍手とともに「ありがとう」と感謝の言葉を送りたく思います。


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