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Ahlbert,G. HABIL: A CHRISTIAN MARTYR IN XINJIANG.

Ahlbert, Gustaf, Habil: A Christian Martyr in Xinjiang.
An English translation from Swedish by Gabriel, Malmö: Pathways Publishing, 2009, 60p.
ISBN 978-91-978199-0-9

Habil_2パリから帰ったら机の上に届いていました。
スウェーデンの友人からの贈り物です。

本書はWikipediaのGustaf Ahlbertの項に言及されていて気になっていたのですが、そのことを何気なく友人に伝えたところ、驚くべきことにその友人の御父君の友人が当の翻訳者であることが判明し、ご恵贈いただくことになったもの。偶然とは恐ろしいものです。というかこれこそ神(紙?)のお導き、なのかもしれません。

本書は20世紀初頭にカーシュガル、カーシュガル新城、イェンギヒサールそしてヤールカンドで伝道活動に従事していたスウェーデン伝道団のメンバーRev. Gustaf Ahlbert(1884-1943)がスウェーデン語で1934年に出版した小冊子の英訳本です。内容はタイトルからも推し量れますが、カシュガルで生まれた少年がやがてキリスト教に改宗し、やがてその信仰ゆえに「殉教」してしまうまでの話を淡々と描いた作品です。

著者AhlbertはGunnar Jarringによれば伝道団のなかで彼地の言語東テュルク語(つまり、今日の現代ウイグル語)および人々の風俗習慣に通暁していた人物で、伝道団が開設した印刷所(Swedish Mission Press)の事業に取り組み、聖書の翻訳や字母教本、ヒジュラ暦とグレゴリオ暦の対照カレンダー、そして書状ならびにイスラーム法廷文書の書式集の出版などを手がけた人でもあります。また1938年についに伝道団が撤収する際に立ち会った最後の3人のミッショナリのひとりでもあります。つまりスウェーデン伝道団のカシュガル地方における伝道活動を考える上で外すことの出来ない、重要人物と行っても過言ではないでしょう(他にはAvetaranianことMuhammad ShukriとかRev. Lars Erik Högberg, Rev. Gustaf Raquette, Rev. John Törnquistなどが個人的には重要だなあ、興味深いなあ、と思っています)。

さて、本書はカバー裏面(表紙とは反対側の面)に「実話(True Story)」と書いており(といっても「信仰上の真実」かもしれませんが…)、おそらく主人公の死は事実なのでしょうが、ミッショナリらしい修辞に満ちており、また主人公本人にしか知り得ないような細かなことまで踏み込んで書かれているので、基本的にはキリスト教側の聖人伝Hagiographyとして読むのがたぶん妥当で、これを根拠に主人公とそのまわりを歴史的に解明するなんてことは不可能でしょうし意味が無いと思います。

しかしながら、少なくとも外来者のミッショナリ、Ahlbertの目を通して見た当時のカーシュガルの社会像として読むならば、本書はかなり興味深い記事を多く含んでいます。例えば本書前半部分のカーシュガルの都市と住民の信仰生活に関する記述はきわめてヴィヴィッドに当時の彼地の空気を感じさせてくれますし、また主人公Habilの殉教(ヤールカンドのヘゲモニーを掌握した"Emir Abdullah"麾下の部隊による処刑)をめぐる状況の叙述は30年代の動乱を理解する新しい、やや異質なイメージを提供するものだと思います。多くは語りませんが、伝道団の目からは1930年代のムスリム反乱は時代錯誤の「蛮行」と見えたのでしょう。そういうイメージがひしひしと伝わってくる一書です。

(本書の時代背景を理解するうえでのおすすめ参考書2冊↓)
Return to Kashgar: Central Asian Memoirs in the Present (Central Asia Book Series)
Prints from Kashghar

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