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ささやかな幸せの話

2週間ほど前のお話。舞台は私が購読している新疆研究のメーリング・リスト。
常連寄稿者のV.M氏の何気ない投書に始まったある議論は、久しぶりに「ことば」というものの面白さと、インターネットのもつ即時性、超地域性を実感させてくれるものでした。議論の種となったのはV.M氏が示したこの写真↓

http://www.bikechina.com/images/tours/adelebikes/photos/photo12.html

これが何というものなのか?という問いかけでした。

新疆ばかりでなく、中国の大都市を歩いたことのある人ならば、結構見慣れているウイグル人のお菓子ソクマック(soqmaq/縮克馬克)あるいは漢語の「核桃仁糖」というのがまあその答え。ところが話はそこで終わらずに、北京にウイグルのものとは別ながら、形状もよく似た伝統的なお菓子「薩其馬(sachima/M.sacima)」が存在することがこれまた常連寄稿者のE.Hさんの指摘で明らかとなり、以後MLの組織者J.M氏や言語に堪能なE.S君、そして身の程知らずながら私もしゃしゃり出て、この言葉についてひとしきり活発な議論がなされたのです。

結果として満州語には18世紀あたりにこの語彙は登場し、俗説ながら新疆から言葉と実物がもたらされたらしいこと、soqmaqにしてもsacimaにしても「切る」とか「潰す」のような動詞語幹が元になっている点で共通しており、なんらかの関係が考えられること、またモンゴル語にも18世紀ごろにすでに似た語彙(cabcimal)が存在していること、などが具体的典拠つきで(みなさん、こういうところはネットでも堅実です)提示されたのでした。ある人はランチタイムを丸々潰したり、蔵書をぺらぺらめくったり結構なエネルギーを使ったようです。そういう私も手持ちの辞書類(たとえば『御製五体清文鑑』)を手当たり次第に引いてみたりしたのでしたが、それぞれの方がその議論を楽しんでいるらしいことが伝わってくるのは快い体験でした。

あまり詳しく書くのもしんどいのでごくごく略述いたしましたが、殺伐とした新疆騒動関連の有象無象の情報が飛び交う中で、この種の議論はまことに健全かつ意義深く感じられ、個人的にはささやかな幸せを実感した次第です。今を生きる私たちは、どうでもいい忙しさにかまけて、往々にしてこの種の素朴な「知ることの面白さ」を忘れがちなのですが、こういう感覚は忘れずにいたいものです。

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Comments

この書き込みから程なくして、気鋭の清朝史研究者M.E氏がすばらしく明晰な見解(両語彙の語義が厳密には違うこと、音の対応関係も疑わしいこと)を示され、チュルク語→満州語という借用関係の可能性は雲行きが怪しくなってきたようです。まあ結果がどこに行き着くのであれ、こういうやりとりは見ていて(といいながら私も参加してしまったのですが)とても勉強になり、楽しいものですね。

Posted by: Jun Sugawara | 2009.09.03 at 12:42 PM

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