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森本一夫(編著)『ペルシア語が結んだ世界』

森本一夫[編著]『ペルシア語が結んだ世界-もう一つのユーラシア史』(スラブ・ユーラシア叢書) 札幌:北海道大学出版会、2009年6月、252頁

執筆者のおひとり近藤信彰さんから拝領いたしました(近藤さん、どうもありがとうございました)。本書の出版を知り、ぜひ入手して読みたく思っていたところでタイムリーにご恵贈を受け、大変嬉しく思っております。

本書は要するにペルシア語オリエンテッドで歴史を考えようという、業界的にはまあ常識的ではありながら、世間的には十全に受け入れられているとは言い難い視点から編まれた論集です。ペルシア語はイランの言葉だと簡単にくくられがち(いや、そもそもペルシャ語とイランが結びつかない人も結構多いかも)です。しかし実際はタジキスタンやアフガニスタンでも公用語として用いられており、歴史的にはもっと広い領域で使用されていた言語でした。いささかステレオタイプな言い回しを用いるならば、ペルシア語はイスラーム世界においてはなんと言っても文学(そして意外に外交でも)一定のプレゼンスを持ち広く用いられた「フランス語」のような立場の言葉だと言えば、あるいはお分かりいただける方もいらっしゃるでしょうか。本書ではそういう文化的・歴史的な枠組みに「ペルシア語文化圏」という名称を設定し、8名の執筆者がそれぞれの視点からこの枠組みを検討しています。

以下、本書の内容を示します:

序章 物を書くことから見たペルシア語文化圏:その面的把握をこえて (森本一夫)
第1部 文献ジャンルから見たペルシア語文化圏
第1章 ペルシア語詩人伝の系譜:韻文学の隆盛と伝播 (近藤信彰)
第2章 ペルシア語文化圏におけるスーフィー文献著述言語の変遷とその意義 (矢島洋一)
第3章 イスラーム法とペルシア語:近現代西トルキスタンの法曹界 (磯貝健一)
第2部 地域から見たペルシア語文化圏
第4章 中央アジアにおけるテュルク語文学の発展とペルシア語 (菅原睦)
第5章 18世紀クリミアのオスマン語史書『諸情報の要諦』における歴史叙述:ペルシア語文献からの影響を中心に (川口琢司)
第6章 清代の中国ムスリムにおけるペルシア語文化受容 (中西竜也)
第7章 南アジア史におけるペルシア語文化の諸相

個別の紹介はここでは長くなるので省略します。どれも面白い内容ですのでお勧めです。

東トルキスタン(現在の新疆の南半)においてもかつてペルシア語は文章語として使用されており、18世紀ごろまでの著作や一部の文書史料はペルシア語で書かれたものが今に伝わっています。これがテュルク語、いわゆるチャガタイ語に転換していくのがたしか18世紀中葉で、おそらくこのころからペルシア語を読めない(テュルク語しか解さない)読者層が登場してきたのであろうと言われています(濱田正美「19世紀ウイグル歴史文献序説」『東方學報』55-4, pp.359-360)。私は19世紀~20世紀あたりの文献をよく漁っていますが、宗教文献や文学作品などは比較的近代になってもペルシア語文献は新疆ではよく読まれていた形跡がありますし、イスラーム法廷でムフティーが出すファトワー(法的意見)はおおむねペルシア語で書かれていたようです。また19世紀末にコーカンドから到来したヤークーブ・ベグ政権は西トルキスタン出身者の政権だけあってペルシア語色もなかなか強く、アブド・アッラー・パーンサドの『新史Tarikh-i sighari』はペルシア語で書かれています(厳密には著者は目が見えなかったので口述?)し、外交文書はペルシア語ではなかったでしたっけ(今やうろ覚え)。ともあれ、新疆にあってもペルシア語は結構なプレゼンスを有していたということができるでしょう。

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