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川口琢司・長峰博之編『ウテミシュ・ハージー著『チンギズ・ナーマ』解題・訳註・転写・校訂テクスト』

川口琢司・長峰博之編 菅原睦校閲 『ウテミシュ・ハージー著『チンギズ・ナーマ』解題・訳註・転写・校訂テクスト』 東京:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、2008年11月、xl+100+45頁。

ジョチ・ウルス史の重要史料であるウテミシュ・ハージーの史書『チンギズ・ナーマ』が川口琢司さん(「たく」の漢字が正しく表示できませんでした…)たちのご尽力により、このほどAA研から刊行されました。例によって国立大学法人附置研究所の非売品出版物ですので、入手を希望される方は直接AA研(全国共同利用係)にお尋ねください。

まず目次をご紹介:


校閲者序
目次
解題
凡例
解題(英語)
凡例(英語)
『チンギズ・ナーマ』訳註
関係地図
関係系図
索引
『チンギズ・ナーマ』転写
『チンギズ・ナーマ』校訂テクスト


当史料は16世紀半ばまでの時期に、ヒヴァ・ハン国において、ウテミシュ・ハージーなる人物がチャガタイ語で著した史書です。内容としてはチンギス・ハンの時代から著者の同時代まで「草原地方(=キプチャク草原)」で生起した諸事件が扱われており、ジョチ・ウルス史研究上高い史料的価値を有しています。

1992年にYudinがファクシミリを出版して以後、後が続かなかった当史料がこうして利用しやすい形で提供されたことは大変有意義だと思います。編者・校閲者のご苦労に敬意を表します。

私は迂闊にも草原地帯についてはあまり関心を払ってこなかったのですが、編者の提示する「マー・ワラー・アンナフルやホラズムとは異なる、独自の情報源にもとづくキプチャク草原における歴史叙述の体系」や校閲者の指摘する中央ユーラシア各地域における文章語の複雑な使用状況については、本書を通じて大いに興味をそそられました。語るに落ちた感がしますが、中央ユーラシア世界は本当に一筋縄ではいかないものですね。

ところで『チンギズ・ナーマ』と言えば、かつてわが恩師故ハジ・ヌルハジ先生が同名の文献を現代ウイグル語で出版されたことがありました(Molla Mir Salih Kashqeri, Chinggiz name. neshrige teyyarlighuchi: Haji Nurhaji, Qeshqer: Qeshqer Uyghur Neshriyati, 1986, 196p.)。この史料は内容はまあ中央アジアの東よりの地域の歴史を扱っており、オテミシュ・ハージーのそれとは別作品であることは明らかです。ただ『チンギズ・ナーマ』というタイトルがどうにも気になるのですね。その史料は後年かのアキムシュキンが『カシュガル史』の名でサンクト・ペテルブルグ写本のファクシミリと解題を出版しており(Akimushkin, O.F., Tarikh-i Kashghar. Anonimnaya tyurkskaya Khronika vladetelej Vostochnogo Turkestana po konets XVII veka. Sankt-Peterburg, 2001, 294s.)、カシュガル版の「著者」はコピイストのようで、またタイトルも実は『チンギス・ナーマ』ではないようです。しかし、それでも(間違いにしても)『チンギズ・ナーマ』という題がそこで何でまたでてきたのか、という疑問は依然残ります。

故ハジ・ヌルハジ先生の直言によれば、あの現代ウイグル語刊本の書名は拠った写本(新疆社会科学院図書館所蔵no.002913写本)の表紙に『チンギズ・ナーマ』と書かれていたから素直にそれに従ったまでということでした。実際私もその写本を実見し、複写も持っているのですが、確かに表紙には"badi' al-zaman khanning chingiz nama kitabi"という文言が記されています。語のつながりに自信がないのですが『稀代のハンのチンギズ・ナーマの書』といったところでしょうか?bedi' al-zamanあたりはともかくとして、どうも私の眼には『チンギズ・ナーマ』はおそろしく一般名詞的に用いられているような印象を持つのですがどうでしょう(ご意見、ご指導を請います)。

さらに管見の及ぶ範囲では、カーシュガル・ホージャ家の歴史を描いたTazkira-i azizanの英国(たしかBodleian Library)所在の一写本に、Chingiz nama-yi Makhdum-i A'zamという題名が書き込まれたものがあったはずです(ちょっとそのコピーが簡単には出てこず、番号が示せないのが遺憾ですが)。こうなると、ひょっとしたら「チンギズ・ナーマ」なる言葉はもううすこし間口の広い作品ジャンル名として扱われていたのではないかな、とも考えたくなりますよね。

新刊落手の書き込みが多いに脱線しましたが、プチ問題提起ということで。
事情をご存知の方のご意見、ご教授を請います。
(私は見た!)『チンギズ・ナーマ』という文言の目撃情報(?)も歓迎します。
コメントをお寄せ頂ければ幸いでございます。


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