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御厨貴編『時代の先覚者・後藤新平』

御厨貴編『時代の先覚者・後藤新平 1857-1929』 (東京:藤原書店、2004年)301頁

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長い間読みたいと思っていた本書を今日ようやく読むことができました。

本書は後藤新平の生誕150年を記念して藤原書店が「大企画」の名のもとに立ち上げた後藤に関する一連の出版物のひとつです。本書のほかに全8巻(+別巻1)からなる伝記(既刊)、全10巻の日記、全10巻の書簡、全10巻の著作集、ほか関連出版数冊の刊行が計画されています。私はかねて藤原書店の仕事には畏敬の念を抱いておりましたが、とりわけこの企画は素晴らしい。藤原書店には謹んで敬意を表したく思います。

本書は編者はじめ38名の有識者が様々な角度から後藤新平像にアプローチした対談と論文からなっており、大変盛りだくさんな内容になっています。私は後藤についてそれなりに勉強していたつもりでしたが、本書の記事は「ええっ」と思うような(私にとっての)新事実が詰まっており、実に楽しく、興味深く読み進めることができました。

(目から鱗の豆知識の一例としては、後藤が関東大震災後の東京市長として震災後の首都復興事業を主導したのはまあ常識ですが、首都環状線(内堀通[環一]、外堀通[環二]、外苑東通[環三]、外苑西通[環四]、明治通[環五]、山手通[環六]、環七、環八)までもが彼の立案とは迂闊にも知りませんでした。)

例によって本書の内容は「お読みください」と申し上げるほかはありません。おそらく、今の世の中に窮屈さを感じている人であれば、それなりに興味を持ってお読みいただけるのではないでしょうか。

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さて、以下はきわめて個人的な戯言です。

私は後藤と同じ岩手県は水沢の出身で、偉大なる先達の名は幼少の時分から聞いて知っておりました。私のようにそのまちで少年時代を送った「元子どもたち」は、ひとしく高野長英、後藤新平、斎藤實の「三偉人」の名を頭に刻み込んでいるはずです。本当にくりかえし、くりかえし小学校の先生たちは私たちに偉人たちの遺徳を語ってくれたものでした。「台湾民政長官」「満鉄総裁」「東京市長」「100メートル道路」「大風呂敷」「ボーイスカウト運動」などのキーワードは我々「水沢の子ども」にとり常識中の常識でした。

小学校(水沢小学校)にはボーイスカウト姿(だったと思います)の後藤新平の写真が掲げられていましたし、小学校の近所には後藤の生家も、正力松太郎の贈った公民館も、そして記念館もありました。高校(水沢高等学校)のころ、まちの公園には新たに後藤の黄金色の銅像も野球場の前に立てられました。夏の野球応援の折はスタンドの向こうにきらきら光る後藤伯像を眺めながら応援歌を歌ったものです。

大学に入り、学部4年のある日、元麻布の中国大使館で新疆を紹介する映画を上映するイベントがありました。新疆史に関心を抱き始めていた私は、当時所有していたオフロードバイク(YAMAHA-XT-250T)を大使館に乗りつけ、その映画鑑賞と相成ったのでした。今にして思えば、あの中国大使館こそがまさしく旧後藤新平宅(跡地)だったのですね。

さらに学部から大学院にかけて私は辛亥革命史のK先生の講義に出席しておりました。K先生は研究の一環として後藤の遺稿類にも造詣が深く、水沢の記念館にも調査に言っておられるとのことでした。K先生を通して、わが郷土の先達が私自身の専門研究とも無関係ではないと知ったのはうれしい驚きでありました。

さらに年月がたち、大学院博士課程在籍中のある秋に私はオーストラリアはシドニーにあり、G.E.モリソンの資料類の調査をしていたことがありました。ジャーナリストとして日本にも知己の多かったモリソンの残した「紙」の数々をひっくり返しているうちに、その中から他でもない後藤新平の名刺が現われた時には実に感慨深く、故郷の先達との不思議な縁を感じた次第です(まあこの場合は実は不思議でもなんでもなく、単に当初私が思っていた以上に後藤が大物だったということなのですが)。

世間一般に言われているように、後藤は実にユニークな人であったと思います。本書ではタイトルにあるように「時代の先覚者」としての後藤に光を当てています。衛生、政治、植民地経営、外交、学術、都市計画、交通、マスメディア、そして市民運動(ボーイスカウト運動)など、さまざまな分野に後藤は足跡を遺し、それらは今日の日本にもつながってきます。そうした後藤の活力や、独創性はどこから出てきたものなのでしょうか。

彼の測量学を学んだり、医師であった経歴に注目するのも一つの考えでしょうが、個人的には(あくまで、やや身びいきな個人的見解です)彼を生み育んだ岩手(南岩手)の風土が大きく影響しているのではなかろうかと考えたいですね。後藤新平の宇宙人的なユニークさは、やはり文学の世界で比類なき独創性を発揮した宮沢賢治とも通じるところがあるような気が私はしています。そうした独創性が同郷者の私にも付与されているとは到底思えませんが、せめてそうした先達を誇りとして、日々精一杯精進いたしたく思っております。

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